不器用人の地球適応記

不器用人の地球適応記

不器用人、地球適応の訓練課程を綴ります

三島由紀夫『青の時代』

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 友から薦められた同著『潮騒』とともに図書館で借りました。

「青」という文字面に惹かれたためです。

 

潮騒』、三島由紀夫作品を初めて読んだ際は(無知も甚だしいことお目こぼしください)旧仮名づかいじゃね~まず読めるわ、話が理解できる(笑)などとぬかしたものですが、

『青の時代』序章で心が折れかけました。抽象的・観念的な言葉の怒涛。

やっぱ難しいじゃん...!(涙) 文字面は目に頭に入ってくるけれど。噛み砕けない。うわ~これが三島ワールドか~と、

潮騒』を読んだ際これは相当読みやすい方なのだろうな~と感じてはいましたが、、、ぐきっ

枯れかけた気力を何とか起こし、読み進めることに...

 

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さて読中薄々感じていたのは、主人公の世界の捉え方と自分のそれが似ているということ。

あくまで自分は第三者的(もしくは軽蔑的)に物事を見、判断していると自惚れている点です。

その第三者的視線を自分にも向けさせるものですから、当然それは強い自省癖へと繋がる訳です。

その自省癖は行動を起こすにも根拠を課します。根拠とは理です。

合理的な性格とは言いますが、その理は「自分が定めて自分が得心がいく」主観的理由にすぎません。決して真理ではないのです。

 

その様子は傍から見れば、痛い中二病そのものでしょう。

 

著者は作品内において「自分で疑う範囲を限定していおいて、それだけを疑う」主人公を書くとあります。主人公は「真理や大学の権威」は信じ、忽ち行動を起こす「卑俗さ」がある。ひどく心配症である半面間抜けな楽天家でもあり、「合理」の名の下、自身の青写真に踊らされるのです。

そうした主人公を著者はシニカルに捉えているのですから、まるで自分も蔑まれているようで。何とも言えなさを通り越し、最早笑えるほどでありました。

...主人公のように優秀な人ではないから余計滑稽ですけれど、

 

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読後、教訓とまで言わずとも、まるで建築でもしているような無駄のない構成を築く著者がこの作品において何を伝えたいか、何を表現したいのかが掴み損ねていました。

主人公の気質・性格が悲劇を招いた、ということなんだろうけども果たしてそれだけ?じゃないんだろうけれど、プールの底に落ちている破片が目に入るけれどもぼやけて掴めないような、よく練られた話の散らばるピースを十分に拾いきれないもどかしさを常に感じながら読んでいました。咀嚼の力が弱いことなんだけれども。

 

巻末、西尾幹二氏による解説によれば、本作は「個人の人間性のタイプの追究」と「戦後という時代への関わり方」という作品の主題、どちらを描くにも中途半端であったと述べられています。

著者自身も矛盾に気づき「失敗した」と反省する作品であったようです。

 

今から思えば読んでいる中、違和感を抱くこともありました。

主人公が戦後の荒廃した街を眺めながら「生きなければならぬ」と反芻するシーンがあります。

たった3ページで区切られる章において「一種ヒステリックな感動が生れた」と書かれるように、これまでに描かれた主人公らしからぬ思いであり、この感動がこれ以降の物語にも深く関わってくるのだろうということが印象付けられる場面です。

 

私にはジブリ映画『風立ちぬ』のキャッチコピーが想起されました。どちらも戦後を生かんとする人々の強かな思いです。

しかし作品の前半部ではこれでもかと主人公の歪な内面が語られますが、それは時代と距離を置いたところで語られるものです。

実際、戦中の情景は描かれることなく、主人公の内面に焦点を当てたまま突然に6年もの月日が流れ作品は進行していきます。

記憶が正しければ、物語後半1度だけ主人公の「生きなければならぬ」という思いに対応するシーンが出てきますが、どこか「時代」や「生」を感じさせることが本作の主人公に不釣り合いな気がして、違和感がありました。

そうした違和感は西尾氏の解説によって少し解消されたように思います。

 

さて一通り読み終わり、冒頭の序章をもう一度読んでみます。

すると読む前はあれほど理解できなかったものが、今では解るような気が。(気が、というのがポイント。)

痛いところが突かれた作品だったと反省し、またその自省癖に辟易。

かの三島由紀夫にも上手くいかなかったことがあるもんだ、と人の不完全性にどこか安堵もし。

 

 

-お初に御目文字-

【須臾にして】(しゅゆにして)...しばらく。少しの間。

【慫慂】(しゅうよう)...そうするように誘い仕向けること。

【阿る】(おもねる)...こびへつらう。ごますり。

 

 

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三島由紀夫『青の時代』新潮文庫

昭和46年 7月23日 発行

平成23年 8月 5日 70刷改版